奈良とサマルカンド ― アフラシアブ壁画と二枚の龍の鏡が結ぶ東西の古代
2026年10月18日、奈良市とウズベキスタン共和国サマルカンド市は、姉妹都市提携から4年目の記念日を迎えた。翌2027年夏、提携5周年を記念して、奈良国立博物館で特別展「奇跡の壁画とシルクロードの至宝」が開かれる。本稿では、この特別展に出陳が予定されている文化財を手がかりに、シルクロードの東の終着点である奈良と、その中央に位置したオアシス都市サマルカンドとの関わりを整理したい。
姉妹都市提携の背景
両市の姉妹都市提携は2022年10月18日に結ばれた。この年は、日本と中央アジア諸国の国交樹立30周年にあたる。
サマルカンドは、ザラフシャン川の流域に栄えたオアシス都市である。古代にはソグド人の拠点のひとつとして、中国から西アジアに至る交易を担った。2001年には「サマルカンド―文化交差路」として世界遺産に登録されている。品物とともに音楽や芸能、信仰を東へ運んだソグド商人の足跡は、のちに見るとおり、奈良の都にも確かに残されている。
アフラシアブ壁画「使節の間」
サマルカンド北部のアフラシアブ遺跡は、イスラーム化以前のサマルカンドの中心地であり、7世紀にはソグドの都として栄えた。1965年、この遺跡で道路の建設工事中に宮殿跡が見つかり、広間の四方の壁を飾る大規模な壁画が発見された。当時の王ヴァルフマンの宮殿を飾ったもので、660年ごろの制作とされる。この広間は「使節の間」と呼ばれている。
西壁には、王のもとを訪れた各地の使節が描かれる。唐の人々、トルコ系の遊牧民とともに、頭に二本の鳥の羽を挿した冠をかぶり、腰に環頭大刀を佩いた二人の人物が見える。この二人は朝鮮半島の高句麗から派遣された使節とみる説が有力である。7世紀の東アジアの使節が、中央アジアの宮廷にまで至っていたことを示す図像として知られる。
南壁には、象や馬、ラクダに乗ったサマルカンドの王侯貴族が、ガチョウを伴って儀礼の行列をなす姿が描かれる。大きさは高さ約250cm、幅約670cmに及び、四壁のうちでも色彩がよく残る面である。
2027年の特別展で奈良に来るのは、この南壁である。複製ではなく実物で、東アジアでは初めての公開となる。高句麗の使節が描かれた西壁はサマルカンドに残る。
二枚の虺龍文鏡 ― 製作から副葬までの五百年
特別展でもっとも注目されるもののひとつが、二枚の大型の虺龍文鏡(きりゅうもんきょう)の並列展示である。虺龍文とは、龍の一種とされる「虺」を表した文様をいう。
一枚は、サマルカンド近郊のコクテパ墳墓から出土した径18.5cmの鏡である。中国の外で見つかった同種の大型品は5例しか知られていない。もう一枚は、奈良市の富雄丸山古墳から出土した径19.1cmの鏡で、国内で見つかった虺龍文鏡としては最大である。
いずれも前漢、紀元前1世紀に中国で作られたものとされる。富雄丸山古墳の鏡は、製作からおよそ500年を経て古墳に副葬された。同じ時代に同じ地域で作られた鏡が、一枚は西へ、一枚は東へ渡り、それぞれ6,000km離れた土の中で眠っていたことになる。その二枚が、初めて同じ展示室に並ぶ。
蛇の造形 ― 蛇行剣と蛇形石製品
富雄丸山古墳からは、全長237cmに及ぶ蛇行剣も出土している。刀身が蛇のように波打つ鉄剣で、その長さからみて実戦の武器ではなく、呪術的な意味を帯びた器物と考えられている。
これに呼応するように、ウズベキスタンからは「蛇形石製品」が出陳される。2匹の蛇が絡み合う姿を石で形づくったもので、紀元前3000年から前2000年ごろ、今からおよそ4000〜5000年前の作とされ、今回の出陳品のなかでもっとも古い。ラピスラズリの原石の重さを量る分銅であったとする説もある。
東西の両端で、蛇という同じ主題がそれぞれの時代の器物に表されている点は、比較の視点として興味深い。
正倉院へ続く器と布
ウズベキスタンからの出陳品には、正倉院宝物との関係で注目されるものがある。
ひとつは十二曲杯である。縁が十二に折れ曲がる長円形の杯で、ササン朝ペルシアに起源をもつ器形とされる。正倉院に伝わる「緑瑠璃十二曲長坏」や「金銅八曲長坏」と同じ系統に属する。
もうひとつは、ブハラのチャパン(長衣)である。経糸を先に括り染めして文様を表す経絣(たてがすり)の技法で織られており、日本の古代の経絣と技法の上で似ていることが指摘されている。
正倉院に納められた器や布の源流が、どの道を通って奈良に至ったのか。その道筋を実物で確かめられる機会となる。
奈良に残るソグドの記憶
奈良とソグドの関わりは、出土品にとどまらない。
飛鳥時代に伝わった仮面劇・伎楽(ぎがく)には、「酔胡王(すいこおう)」「酔胡従(すいこじゅう)」という役がある。鼻が高く彫りの深い異国の顔立ちの面で、「胡」は西方の人々を指す。シルクロードを行き交ったソグド人の姿が重ねられていると考えられている。伎楽は天平勝宝4年(752年)、東大寺大仏の開眼供養でも演じられた。
また、7世紀にインドへ経典を求めて旅した玄奘三蔵は、その往路でサマルカンドを通っている。中国ではサマルカンドを「康国」と呼び、玄奘の旅の記録『大唐西域記』にもその名が見える。玄奘の遺骨の一部は、奈良・西ノ京の薬師寺、玄奘三蔵院伽藍に祀られている。
特別展の概要
特別展「奇跡の壁画とシルクロードの至宝」
会期:2027年7月10日〜9月5日
会場:奈良国立博物館 東西新館
主催:奈良市、奈良国立博物館、ウズベキスタン共和国大統領府文化芸術発展基金、NHKエンタープライズ近畿、読売新聞社
特設サイト:https://kisekino-hekiga.jp/
奈良市では、この特別展を充実させるため、ふるさと納税型のクラウドファンディングを実施している(目標額1,000万円、2026年10月25日締切)。
奈良市の案内ページ:https://www.city.nara.lg.jp/site/kankou/272431.html
寄附ページ(ふるさとチョイス):https://www.furusato-tax.jp/gcf/5676
おわりに
龍道は、日本の「はじまり」の地である奈良から、その源流をたどることを活動の軸としている。奈良に伝わった器や芸能、信仰の多くは、長い道のりを経てこの地に届いた。2027年夏、その道の途中にあった都の壁画と、道の両端で眠っていた二枚の龍の鏡が、奈良で出会う。龍道では今後も、正倉院や奈良の遺跡、シルクロードの諸都市を訪ね、その記録をこの場所で伝えていきたい。